静かでひなびた風情 / 山形大蔵村「肘折温泉」
2026/02/11
肘折温泉は、山形県大蔵村の山あいにあり、開湯1200年の歴史があります。
火山の爆発により形成された肘折カルデラの中にあり、昔ながらの湯治スタイルを守り続けている、静かでひなびた風情の温泉地です。
肘折という名の由来には、肘を折った老僧がこの温泉の湯に浸かり傷を治したという説がありますが、実際に骨折や傷に効果のある湯が沸いています。
私は、夏にこの肘折温泉を訪ね、素朴な雰囲気を楽しんできました。
私は山形生まれなので、行ったことはなくても肘折の名前は知っていました。
祖母は近所の友人らと、よく湯治に肘折へ出かけていました。
肘折へは車で向かいましたが、崖から落ちるような山道を抜けたところに広がる温泉地でした。
温泉街には新しい旅館もありますが、ほとんどは狭い道をはさんで軒を連ねる古い旅館です。
私が泊まった宿も古いつくりで、廊下や階段を歩くとギシギシと懐かしい音がしました。
お部屋はシンプルで、冷蔵庫は各階で共用、洗面所やトイレも男女共用です。
お風呂場は男女共用の小さいものが二つあり、男性と女性どちらが入っているのか分かるように、浴室前に「男性入浴中」というような立て札が置かれていました。
私も立て札を立てかけ入浴しましたが、誰とも一緒にならずのんびり入れました。
食事は部屋でいただくスタイルで、地元の食材を使った体に良さそうな郷土料理を、たいへん美味しくいただきました。
夜は暗い廊下に蚊取り線香が置かれ、歯磨きや、冷蔵庫にものを取に行く際に他のお客と挨拶を交わしたりすると、なんとも懐かしく贅沢な時間に感じられました。
肘折温泉には、冬をのぞいて毎日開かれる朝市という名物があります。
私が泊まった宿は、朝市会場の正面だったので、早朝5時にはバタバタとにぎやかになり、外を覗くと、地元の人や湯治客と思われる人、観光客らが入り混じってにぎわっていました。
以前宿泊したことのある祖母が、部屋の中に人がいるのかと思ったと、朝市のことを言っていましたが、それが分かる近さでした。
地元のおばあちゃんたちが地べたに座り、採れたての野菜や山菜、手作りのおむすびなどを広げ、お客を呼び込んでいました。
昔は湯治客のおかずとして売られていたそうですが、今はお土産として買っていく人が多いそうです。
今でもこんな風景が残っているんだと嬉しくなり、心が温まりました。
温泉街で足湯に浸かっているときに、そこのご主人にスイカをごちそうになり、印象深い話を聞きました。
ある団体一行が来たときに、ここは出迎えも見送りもなくて、もてなしができていないと言われたそうです。
「ここは湯治場として残してきてるから、そういう贅沢な旅がしたい人には物足りないんですよ、このひなびた感じが良いって言ってくれる人でないとねえ」とご主人は言っていました。
たしかに、きれいさや行き届いたおもてなしを求める人には向いてないと思いますが、私は心温まるゆったりとした贅沢な時間を肘折で過ごせました。
素朴でひなびた雰囲気が好きな人には、ぜひおすすめしたい温泉です。
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